設備管理・運用改善
2025.10.9
製造業の保全部門は、日々の奮闘をExcelやスプレッドシートに丹念に記録しています。トラブルの発生箇所、対応内容、停止時間、発生回数。これらのデータは、どの設備のメンテナンスを優先すべきか判断するための「見える化」ツールとして、現場の羅針盤となるはずでした。しかし、多くの現場が、いつ終わるともない reactive(事後的)な対応のサイクルに捕らわれている感覚を拭えません。集めたデータは過去の失敗の記録となり、未来の成功への道筋を示すまでには至っていないのです。
先日、まさにそのような課題を抱えるある製造企業の保全部門と議論する機会がありました。彼らの当初の目標は、Excel管理を脱し、停止時間や故障頻度のデータを活用して「メンテナンスの優先順位を的確に決める」ことでした。しかし議論を深める中で、単なる業務改善に留まらない、保全業務そのものを「反応型」から「戦略型」へと変革する5つの重要な発見がありました。本記事では、その議論から見えてきた、Excel管理の限界を超え、保全業務をデータドリブンな資産戦略へと昇華させるためのロードマップをご紹介します。
この記事の目次
1
保全業務には、生産を止めない「計画作業」と、生産を止めてしまう「突発停止」があります。この2つを同じ「トラブル」として集計してしまうと、本当に解決すべき問題の姿は霞んでしまいます。これは、単なる分類の話ではなく、保全哲学の転換です。つまり、「あらゆる作業を記録する」から、「価値を破壊する”真のダウンタイム”を正確に測定する」へのシフトです。
議論の中で担当者の方が強調したのは、「Vベルトの異音に気づき、生産に影響のない休日に交換するような計画作業は、突発故障による停止時間とは明確に区別したい」という切実なニーズでした。
この課題へのシンプルな解決策が、保全管理システムが持つ「作業時間」と「停止時間」を分けて記録する機能です。設備が稼働していない時間帯に行った作業は、「作業時間」は記録しつつ、「停止時間」をゼロ分として登録できます。これにより、突発的な故障によって実際に生産が止まった時間だけを正確に抽出し、分析することが可能になるのです。この一見些細な区別こそが、ノイズを除去し、最も深刻な問題にフォーカスするための、すべてのデータ分析の原点となります。
2
「機械から少し異音がするが、今すぐ止めるほどではない。しばらく様子を見よう」。これは、保全の現場で日常的に発生する現実的な判断です。しかし、このような「様子見」案件は担当者の記憶やメモに依存しがちで、日々の多忙な業務の中で忘れ去られ、やがて大きなトラブルへと発展するリスクを常に内包しています。
この、よくある業務上の脆弱性に対し、システムの「保留」機能が強力な解決策となります。この機能を使えば、「1週間後に再確認」といった具体的な日付を設定して、タスクを一時的にアーカイブできます。そして設定した日になると、そのタスクが自動的に作業リスト上に再表示されるため、確実なフォローアップが実現します。
口頭での確認や個人の記憶に頼っていた曖昧なプロセスを、仕組みによって管理する。これにより、小さな異常の芽を決して見逃さず、大きなトラブルの未然防止に繋がります。そして、このように抜け漏れを防ぐことで初めて、次に述べる「事後保全」の記録が信頼できるデータとなり、改善サイクルへのインプットになるのです。
3
保全業務のレベルを継続的に向上させるには、どのような思想でシステムを運用すべきでしょうか。議論の中で見えてきたのは、場当たり的な対応から脱却し、故障そのものを無くしていくための、強力な運用哲学でした。それは、以下の改善サイクルを回すことを前提としたシステム設計です。
このアプローチの核心は、「故障を未然に防ぐ」という目標に向かって、データに基づいた合理的な予防策を打つことにあります。単に目の前の問題を解決するだけでなく、故障が起こる根本原因をデータで突き止め、それを排除していく。これこそ、終わりのない事後対応のループから抜け出すための、最も確実な戦略です。
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予備部品の在庫管理をデジタル化しようとする際、多くの担当者が「すべての部品をリストに登録するのは大変すぎる」という完璧主義の壁にぶつかり、プロジェクトが停滞しがちです。しかし、最初から完璧を目指す必要はありません。ここでのマインドセットの転換は、「完璧なデータ入力」という考えを捨て、「実践的で反復的なアプローチ」を採用することです。
議論の中で示された実践的なアドバイスは、「小さく、賢く始める」ことでした。まずは「すぐに使う予定のある部品」や、「欠品すると生産に致命的な影響が出る最重要部品」から優先的に登録します。その後、修理が発生するたびに、その作業で使った部品を都度リストに追加していく。この方法なら、日々の業務の中で、無理なく段階的にデータベースを充実させていくことができます。
また、在庫管理の真価は、単なるリスト化に留まりません。あらかじめ設定した在庫数を下回った際に自動で通知してくれる「発注点管理」機能は、「使いたい時に部品がない」という最悪の事態を防ぎ、管理業務の負担を劇的に軽減する、極めて価値の高い機能です。
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当初の目的であった「停止時間やトラブル発生回数に基づく修理の優先順位付け」は、重要な業務改善です。しかし、データの真価は、現場のオペレーション改善から、経営レベルの意思決定支援へと進化することにあります。
議論が深まる中で見えてきたのは、設備一台ごとに、これまでにかかった「部品代」と「工事費」を含む累計コストを追跡するという、より強力なデータの活用法でした。この累計コストを可視化することで、すべての経営者が知りたい問いに、データで答えることができます。
「この古い機械を修理し続けるコストと、新品に交換するコスト、どちらが経済的に合理的か?」
これは、日々の作業記録が、未来への投資判断を支える戦略的な情報へと昇華する瞬間です。現場の保全データが、工場フロアと役員会議室とを繋ぐ架け橋となり、設備投資計画(CAPEX)の重要なインプットとなるのです。
6
今回ご紹介した5つの発見は、単なる機能紹介ではありません。それは、日々の記録を「次の価値ある一手」に繋げるための思考のフレームワークです。
まず、計画作業と突発停止を区別し(発見1)、曖昧な「様子見」を仕組みで管理する(発見2)ことで、信頼性の高いクリーンなデータを生み出します。そのデータが、事後保全の記録から予防策を生み出す強力な改善サイクルを回す燃料となり(発見3)、現実的な在庫管理がそれを支えます(発見4)。そして最終的に、そのすべてが積み重なり、現場の記録が「修理か、交換か」という経営判断までを支援する(発見5)のです。
スプレッドシートから統合システムへ移行する真の価値は、こうしたオペレーションの知能化を実現し、保全業務をコストセンターから戦略部門へと変革することにあります。
あなたの現場のデータは、日々の”作業記録”で終わっていますか? それとも、未来への”投資判断”に繋がっていますか?
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